慶應女子の就活放浪記 初内定まで
就活を始めるのも早ければ、内定が出たのも早かった。
六月の頭に、三田で行われた慶應生限定合同説明会に意気揚々と参加した。2018卒の大学三年生を対象にした、慶應生限定合同説明会は、たぶんあれが最初だったはず。
いかにも意識高そうでおしゃれな、ザ慶應ボーイ慶應ガールたちが、キャンパス近くの会場に群がっている。参加している会社のリクルーター達も、慶應生に負けじと、見るからに意識が高そうで、スーツをおしゃれに着こなしている。選ばれし者による、選ばれし者のための、早期特別合同説明会って感じがムンムンする......。
仕事内容に興味がなかった私は、合説に参加する企業がどんな仕事をしているかを事前に調べなかった。これは後から調べて分かったことなのだが、参加していた会社は、数社を除いてすべて、外資コンサルだった。そりゃあそんな雰囲気になるわな。
マッキンゼー、ゴールドマンサックス、A.T.カーニー、デロイトトーマツコンサルティング、その他名だたる外資コンサル会社が、各自ブースを並べ、デキる男/女を体現したようなプレゼンターが自信満々に自社の説明をしている。だいたいどの企業も、短いプレゼン時間の冒頭にプレゼンター個人の自己紹介を入れ、「慶應OB/OGです!」とアピールして親近感を抱かせ、後輩を取り合っている。慶應生も、他の生徒より少しでも前に座り、質問をし、自分の存在を人事部に印象づけようと、必死である。
はあー、すごっ。
気後れした。
それでも、何社か説明を聞いた。
説明を聞いた後にエントリーシートに名前を書いて提出するときに、何人かのリクルーターの方には「良かったらうちのサマーインターンシップに申し込んでください。」などと声をかけていただいた。
でも、超疲れた。それに、16:30から私が夢中になっている印度哲学の授業があるので、就活よりもそれを優先させたく、会場を出ようと、人波をかき分けて出口へ向かっていると「すみません。」と声をかけられた。
そちらを向くと、まだ説明を聞いていない、とある会社のリクルーターだった。
「うちの説明聞いて行きませんか?」
「ごめんなさい。もうすぐ授業があるので、ここを出ないといけないんです。」
普通ならここで、そうなんですか、授業頑張ってください、で終わるはずだ。
「授業終わるのって何時ですか?それからまた戻ってきますか?」
やけに粘着質だなあ。
「授業終わるの18:00なんです。戻ってきたい気持ちはあるんですけど、この合同説明会も18:00までなので、戻って来れないかなと思います。」
「そうですか。」
とリクルーター。本当にそろそろ行かないと印度哲学遅刻する!と思い、すみませんと謝って退出しようとしたら
「あの、お名前教えていただけますか?もし授業後に戻って来てくださったら、この会場での説明会は終わっていても、僕が個別にうちの会社の説明をするので、よろしければぜひ。」
びっくりした。こんなことってある?説明を聞いてもいない会社のリクルーターと会場ですれ違っただけなのに、こ、個別対応?そんなに私に興味を持ってもらえる要素もないと思うのだが。でも、こんなチャンスが舞い込んできた人は少ないのではないかと思い、名前を告げて、ダッシュでその場を後にし、印度哲学の教室にスライディングした。
印度哲学の授業を終え、あのリクルーターが、私を待っていて、帰れないと申し訳ないと思ったので、またあの会場に向かった。会場の入り口で、デロイトのプレゼンターとすれ違った。ほら、みんなもう帰ってるのに、申し訳ないな、と思った。受付では「もう終わって片付けしているので生徒さんは入れません。」と注意された。
声をかけてきたリクルーターに会うと、ものすごく喜ばれた。合説を終えて各会社が片付けをしている時も、会場のロビーにはまだいて良いようだったので、ロビーの椅子に並んで座り、そのリクルーターと一対一で一時間くらい説明を聞いた。
会社の説明はもちろんしていただいたが、なぜか途中で急に、「ハーフですか?」と訊かれて、びっくりした。
「いえ、100%日本人です。」
「へえ。じゃあ、出身は?」
「東京です。」
「ご両親もずっと東京なんですか?」
「はい。祖父は岩手みたいですけど。」
「ああ、だからですか。東北の方って色白ではっきりした顔立ちの方多いですもんね。」
と謎のやり取りのあと、会社の事業内容から離れた雑談になった。
「慶應は第一志望で入ったんですか?」
「はい。受けたなかでは。本当に京都大学に行きたかったのですが、受けるのを諦めました。」
などを話し、なぜかそのリクルーターの浪人時代や大学時代の話を聞き、最後に、名刺を渡された。
え?大学三年の六月で、就活開始一日なのに、某会社のリクルーターの名刺ゲット!?
うまく進みすぎて、怖かった。だいたい何でも、初めにうまく行き過ぎると、後で怖い目に合うものだ。そう覚悟していたが、そのあと、その会社にたびたび来社するようになり、本当に面白いほどポンポンと選考も進み、息をするように内定をもらってしまった。
そして、2018卒の就活が解禁される三月には、はるばるドイツ、オーストリアへ2週間の長期旅行に旅立ったのである。
というサクセスストーリーを聞いていただきましたが、これから怖い目に合います。次号をお楽しみに。